縛鎖−bakusa−
美里とそんな話しをしている今も彼は私に憑いて来ている。
左肩がひんやりして重たい。
視界の隅に半透明な学生服が映る。
『なあ!見えてるんだろ?無視すんなよ!
頼むから話しを聞いてくれ!俺、心残りが……』
勝手に話し掛けるな…
肩に手を置くな…
憑いて来るな…
必死に訴え掛ける彼を無視する。
何故自分の命を削って見知らぬ魂の願いを聞かなきゃならない。
『お願いだよ!助けてくれよ!』
煩い…喋るな…
いい加減に諦めろ……
雨の日はうろつく霊体が増える分、こう言う嫌な目に合う確率も上がる。
悲しい目で必死に訴える彼らを無視するのは…
結構キツイ物だ。
心の中の小さな良心とのせめぎあい。
「無視しろ」と言う母の言葉で心を覆い守ろうとするが、
彼らの悲しい眼差しと声はバリアをすり抜け、
16歳の私の良心に針でチクチクと小さな傷を付けて行く。
その傷は幼い頃から受け続けて来た。
でも…決して慣れる事はない。
心に付けられる傷。
結構痛い……
バス停で数分待っているといつものバスがやって来た。
美里と喋りながらそそくさとバスに乗り込む。
彼は…憑いて来なかった。