縛鎖−bakusa−
 


「ごめん…イライラして。

はぁ…ダメだよね、私は私だ。自分を見失う所だった。

ありがと、気付かせてくれて」




久しぶりに笑った。

弟を安心させようと、冷笑ではなく微笑んでみた。



でも弟は表情を曇らせる。



「姉ちゃん…母さんみたいな事しないでよ…

姉ちゃんまで死んだら俺…嫌だよ…」




弟には全く霊感はないが、母が何をして早死にしたのかは知っている。

教えたのは私。

「嘘だ」と言わずに弟は素直に信じた。



「カレラを無視しなさい…そうしないと…」

幼い頃から母が繰り返し私に刷り込んだ言葉を、弟も聞いて育って来た。

自分には見えないけれどカレラの存在を信じている。




水道の蛇口を捻り、鯖の血で汚れた手を洗い、弟の頭を撫でた。



「大丈夫。私はお母さんみたいにならないよ。

カレラの想いは背負わない。願いを聞かない」



水谷徹の件が終わった後からはね……




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