縛鎖−bakusa−
「山本先生、もう苦しまなくていいですよ。
水谷徹はあなたから離れ、今私の隣に立っています。」
15年前のノートに日焼けや黄ばみはなかった。
まるで最近使っていたかの様に、時を知らない新しいノートだ。
彼女はこれをどこに仕舞い込んでいたのだろう。
光りの当たらない…いや、人目に触れない場所にしまい込み、
捨てる事も出来ず、ただ自分の罪に蓋をしてやり過ごしていたのだろう。
ノートをパラパラと捲ると、細かな神経質そうな字でビッシリと書き込まれていた。
加害生徒の名前と虐めの内容が、30枚のページにぎっしり詰め込まれている。
これは…彼の苦しみと悔しさの記憶…
「水谷徹、これでいいんでしょ?
私の役目はおしまいで、あんたの鎖も消えるんでしょ?」
『そうだね…鎖が少し軽くなった気がするよ。
後はこのノートの行く末を見届けたら消えるんじゃないかな…僕の魂が…
長かった…やっとこの学校から離れられる…』
「そう、良かったね」
『千歳…君に会えて良かった…ありがとう』