縛鎖−bakusa−
なるべく日陰を選んで歩いた。
こっちの日陰からあっちの日陰へと、建物に出来た小さな影を渡り歩く。
外階段が剥き出しの古い二階建てアパートの前を通った。
「寿荘」と書かれた古いこの建物の前を通る度に考えてしまう事がある。
一体全国に「寿荘」と名前の付いた建物がどれくらいあるのか…
100や200じゃないだろう。
もしかすると1000…いや5000くらいあるかも知れない。
どこにでもあり誰もが見た事あると言いそうで、
それでいて有り触れた外観と名称に匿名性を感じる建物。
なんだか不思議な気分になる。
そのアパートに出来た短い影の中を通っていた時、
ひやりとした霊気を感じジャラリと鎖の音を聞いた。
こんな晴れた日に出て来るなよ…
その小さな日陰から早く出ようと、熱っせられたアスファルトの方へと足を向けた。
その時…
後ろから声を掛けられた。
『君…心に鎖が巻き付いてるね…誰の願いをカナエタノ…?』