縛鎖−bakusa−
 


少し歩いて寿荘の前に来た。


近くに人の気配を感じ、この前話し掛けて来た彼かと…一瞬身構えるが違った。



前方数メートルの距離には、こっち向かって歩いて来る親子の姿があった。



若い母親と2〜3歳位の小さな男の子。

その親子と擦れ違う時、母親に軽く会釈された。



知り合いだったのかと頭を巡らせる。



そう言えば見た事あるような…

あれ?どこで会った?

私に子供のいる若い母親の知り合いなんて……



首を傾げたまま行き過ぎ様とした時、

その人が誰だか分かって「あっ!」と大声を出してしまった。



驚いた様に足を止めた親子と寿荘の前で向かい合う。



「レジのお姉さんですよね?」



そうだ。間違いない。

この人は今さっき「居なくて残念」と思った素敵な笑顔のレジの女性だ。



レジに立つ時彼女は店のエプロンに髪を一つに束ねているが、

今はワンピースに長い髪を下ろしているので、雰囲気が違ってすぐには分からなかった。



私に向かう彼女は、レジに立つ時と同じ素敵な笑顔を見せてくれた。



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