縛鎖−bakusa−
当たり障りのない立ち話をしていると、
小さな男の子が彼女のスカートの裾を引っ張る。
「ママ!あしょこ!パパいる!」
「パパはまだお仕事中だよ。暗くならないと帰って来ないよ」
「ううん、パパじゃなくてパパいるの!」
彼女と私は同時に首を捻って、男の子の指差す先を見た。
男の子の指先は古いアパート寿荘の階段を指している。
屋根もない外に剥き出しの錆びた鉄の階段。
その中腹に立ちこっちを向いて手を振っているのは……半透明の男性。
え…まさか…
戸惑いながら固まっていると、彼女は息子に言った。
「コラ!嘘ついちゃダメでしょ?
パパは居ないよ。お仕事だもん」
「パパいる!パパ!パパ!うわーん!」
自分の言う事を信じて貰えず、その子は泣き出した。
この子は見えている…
たまに居るんだ、幼い子供の頃だけ見える人ならたまに居る。
私や母程の人は…滅多にいないと思うけど…