縛鎖−bakusa−
 


「奥さんの再婚…喜んでいるのですか?」



『そうだよ?ああ、悔しいと思わないのかって事?

悔しくないよちっとも。

ヤキモチより二人が幸せである事の方が大事だよ。そう思わない?』



「そうですね…すみません…余計な事言って…」



『やだな謝らないでよ。

君いい子だね。
こんな幽霊のおじさん相手に素直に謝るなんて。優しいなぁ』



「優しくはないです。

私はあなたとは違い、自分の事ばかり考える人間です」




溜息をついた。

霊になっても鎖に囚われても、彼、沢村幸則は自分より人の事を考えている。



それに比べて私は…



自分を守りたい一心で、未だトンネルの亮介君を救う気持ちにならない。



沢村さんと話しをしている理由だって、私の心に巻き付くこの鎖の外し方を聞く為であり、彼の想いを聞く為ではない。



嫌な人間だな…私って…




『ほらほら元気出してよ、君に霊障を与える訳にいかないから、頭を撫でる事も出来ないよ。

ほら笑って?女の子は笑顔が一番!アハハッ』




とことん明るい沢村幸則に釣られ、私も幾らか笑う事が出来た。



この人いい人だな…

心からそう信じていた。



彼が色々と聞いて来るから私もついつい話してしまう。



父にも弟にも誰にも相談出来なかった事。


トンネルの亮介君の事や水谷徹の事、

美里との友情を修復不可能な事態にしてしまった事、


それから気持ち悪い先輩と…

霊達の想いを背負い、早死にした母の事…



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