過保護な妖執事と同居しています!
 ザクロが後片付けをするために、キッチンへ姿を消すのを見計らって、私は着替えを済ませ会社に行く支度を整える。

 いくら妖怪とはいえ、一応人間の男性の姿をしている者に、着替えや化粧をしているところを見られるのは落ち着かない。
 それを知ってか知らずか、ザクロはキッチンから戻ってくるとき必ず声をかける。


「頼子、支度はお済みですか?」
「うん」


 私は返事をしながらキッチンへ続く扉を開けた。横によけたザクロの前を通り抜け、玄関へ向かう。キッチンのすぐ先が玄関なのだ。
 私はパンプスに足をつっこんで振り返る。


「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃいませ」


 恭しく頭を下げるザクロに、軽く手を振って私は家を出た。
 鍵をかけて歩き始めると、ザクロはいつの間にか後ろにいる。そしてそのまま互いに話すこともなく黙々と歩く。
 周りの人にはザクロの姿が見えていないので、話していると私が変な人になってしまうからだ。

 私が会社にたどり着くと、ザクロは家に戻る。そのくらいの距離なら離れていても大丈夫らしい。

 そして仕事が終わって会社を出ると、ザクロが待っているのだ。残業で遅くなっても、必ず待っている。
 定時からずっと待っているのかと思ったら、私の様子がザクロにはわかっているらしく、帰り支度を始めたら迎えにくるらしい。
 命が糸のようなもので繋がっているので、それをたぐりよせて短時間で移動できるという。

 ザクロは私の命と心身の健康を保つことに熱心で、家事全般を請け負ってくれるのも、私が憧れていた架空執事を演じているというより、雑務で私にストレスを与えないためということのようだ。

 ただ、ひとつだけ手出ししないことを約束してもらっている。
 会社では仕事の上でストレスが少なからずある。ザクロにはそれもすべて見えている。
 けれど、会社内の事には一切手出しして欲しくない。

 たとえば、私が上司に叱られて落ち込んでいたからといって、上司を排除されてはたまらない。
 そんなことをされては、私が益々落ち込むなんて彼は思わないのだ。

 死なない妖怪のザクロは、命に対する価値観がやはり人とはズレている。

 とはいえ、そう思っているのは私だけではなかったようで、以前の宿主にも「人殺しだけはするな」と何人かに言われたらしい。

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