過保護な妖執事と同居しています!
「一枝拝借してきました」
目の前に差し出された十センチほどの小枝には花が三輪とつぼみがふたつついている。かすかに甘酸っぱい香りが漂った。思わず息を吸い込んで目を細める。
「いい香り」
「頼子、少し下を向いてください」
言われた通りに少し俯くと、ザクロが両手を私の頭の上に上げた。腕の間に閉じこめられたようで、少しドキドキする。
ザクロの手が髪に触れ、一際ドキリとした直後、朝ザクロがアップに結ってくれた髪の根元に梅の小枝が刺し込まれた。
手を離したザクロは、一歩退いて私を見つめる。そして眩しそうに微笑んだ。
「とてもよくお似合いですよ」
「あ、ありがとう」
なんだか照れくさくて、私は俯いたまま上目遣いにザクロを窺う。似合うと言われても、自分で見ることができないのがもどかしい。化粧ポーチに入っている手鏡じゃ小さすぎてよく見えないだろうし。
そしてふと閃いた。
「ねぇ、ザクロ。実体化して」
「はい」
理由も聞かずにザクロは素直に実体化したようだ。私には元々見えているので、違いはわからない。
私は上着のポケットから電話を取り出してカメラを起動する。インカメラに切り替えてザクロの隣に並んだ。
「もう少しかがんで、もっとくっついて」
「はい」
ザクロは言われた通りに私の横に顔を並べる。妖怪ってカメラに写るのかどうか謎だったが、ちゃんと見えている。
私は髪に刺した梅の花が見えるように顔の角度をかえてシャッターを切った。
できあがった写真を確認してにんまりと笑う。なかなかよく撮れてるじゃないの。特にザクロが。
「見て」
ザクロの前に写真を差し出すと、ザクロは不思議そうにそれを見つめた。
「私がいます。これはなんですか? 随分小さいけどテレビですか?」
あー。二百年前から眠ってたザクロは知らないか。
「写真っていうの。今見えているものや景色を写し取ったものよ。家にある雑誌とかにも載ってたでしょ?」
「あれが写真ですか。今の人は本物そっくりの絵を描くのが上手なのだと思ってました」
絵だと思ってたのか……。まぁ、そういう絵を描く人もいるとは思うけど。
がっくりと脱力した途端にお腹が鳴った。電話の時計を確認すると十二時を少し回っている。さすが私の腹時計。