過保護な妖執事と同居しています!


 家に帰り着くと、鍵を開けている間にザクロはいつの間にか消えている。
 そして扉を開けるとそこにいて、恭しく頭を下げるのだ。


「おかえりなさいませ」
「ただいま」


 これはたぶん、執事を演じているのだろう。

 玄関にはデミグラスのおいしそうな匂いが立ちこめていた。思わず頬が緩むのと同時にお腹がなった。


「わぁ、ビーフシチュー作ったの?」
「はい。頼子がお好きなようですし」
「へ? なんで知ってるの?」
「料理の指南書に印がついていました」
「指南書……」


 そういえば、はるか昔に作りたいと思って、好きなものに片っ端から印を付けたような気がする。
 結局作ったかどうかすら覚えていないが。


「夕方に作ったので冷めてしまいました。温めなおします」
「うん。ありがとう」


 私はその隙に着替えて化粧を落とす。ホッと一息ついた時、キッチンの扉が開いて、食事の載ったトレーを持ったザクロが現れた。


「お待たせしました」


 テーブルの上に置かれた食事を見て、私は目を細める。湯気の立つビーフシチューの他に、小さなロールパンがひとつと、エビとキノコとキャベツのマリネが少し添えられていた。

 残業で遅くなったときには、食事の量を少な目に調整してくれるのだ。

 おいしい夕食に幸せをかみしめながら、ふと何も関係ないことが気になった。

< 11 / 127 >

この作品をシェア

pagetop