過保護な妖執事と同居しています!
ザクロは応えず、いつか聞いた言葉を静かに繰り返した。
「頼子は特別です。頼子のような主は今までいませんでした。タケル、お母さん、葛丸(かずらまる)、廣成、真之、清太郎、利吉、いろんな名前で呼ばれましたが、それは全部誰か別の人の名前です。私はずっと誰かの身代わりでした。頼子だけです。私に私だけの名前を与え人の心を教えてくれたのは」
それを聞いて、私は初めてザクロの悲哀を知る。
ザクロの繭が見えるのは心に傷を持つ女だけ。母をなくした子供、逆に子供を失った母親。私のように恋人を失った女もいたのだろう。
そんな女たちがザクロに望んだ姿は、失った愛する人。だからザクロは主の望む姿でそこにいればいいだけだったのだ。
身代わりのザクロにザクロ自身の心など求められていなかった。誰もザクロに人の心を教えなかったのがわかる。
私は納得のいかない失恋に傷ついてはいたけれど、彼とよりを戻したいとは思っていなかった。そのせいでザクロは、私が憧れている架空の執事姿になった。
自ら望んで身代わりに甘んじていたとはいえ、自分自身の存在を認められることは、ザクロにとってよほど特別なことなのだろう。
ようやく本当のザクロに会えたような気がするのに、どうして別れようとするのかわからない。
名前をもらって嬉しかったんじゃないの? ザクロが誰かの身代わりじゃなく、ザクロ自身でいられるのにどうして?