過保護な妖執事と同居しています!
すべては御心のままに
「あー疲れたー」
「お疲れさま」
机に突っ伏した清司の肩や背中を、依久がニコニコ笑いながら体重をかけて揉みほぐしている。
ヒメが請け負ったザクロの願いを叶えるため、清司は結界を張ったり水蛇を呼び出したりと、いつになく大量の霊力を消費する羽目になったのだ。
毎日ヒメにうるさく指導され、以前に比べて力配分はマシになったものの、やはり依久の補助がなければ、気を大量に集める事は苦手だ。
今回はあらかじめわかっていたので、前もって依久に気を受け渡してもらっていた。それでも水蛇を呼び出すという大技は、負担が半端なく、気力の消耗も激しい。
すべてが終わって当事者の二人が幸せそうに神社を去って行った後には、もうぐったりと疲れ果てていた。
「あ、もうちょっと右」
依久のマッサージに腑抜けた声を上げていると、突然背中に電気ショックのような激痛が走った。
「ってーっ! なにすんだよ、ヒメさん!」
清司は体を起こし、振り向きざまに依久を怒鳴る。中身がヒメに変わっていることはわかっているからだ。
「あれしきのことで疲れるなど不甲斐ない」
「あれしきって、水蛇を制御するのに半端なく気を遣うってこと知ってるだろ?」
「おまえの精進が足りぬだけじゃ」
水蛇を制御できるようになっただけでも褒めてもらいたい、と言ったところで鼻であしらわれることは目に見えているので黙っておく。
そもそも水蛇を呼び出す必要があったのか、清司は疑問に思っていた。ザクロの願いを叶えるための段取りを決めたのはヒメだ。清司はその段取りに従って行動しただけなのだ。
メールで警告はしたものの、その後の様子をヒメが気にかけていたので、頼子と出会ったスーパーで待ち伏せした時の事。清司が頼子と話をしている間に、ヒメはザクロと話をしていた。
その時に絆を断ち切って欲しいと頼まれたらしい。
「なぁ、ヒメさん。もしかして、あいつらが相思相愛だって知ってた?」
「おまえは知らなかったのか?」
「頼子の方は聞いてたけど、ザクロの方は今日まで知らなかったなぁ」
「わたくしは最初に見た時から気付いておったわ」
「あー乙女の勘って言ってた奴?」
知っていながらなぜ、ふたりが別れることになることを承諾したのかわからない。
「もしかして、ザクロの願いを叶える気なかったとか?」
「おまえの主祭神は何の神であったかの?」
にっこりと微笑むヒメに、清司はため息交じりに答える。
「五穀豊穣と縁結び」
「そのくらいは覚えておったか」
ようするに縁結びの神が縁切りに手を貸すわけはないということか。
よけいに疲れが増して、清司は再び机に突っ伏した。
「ちぇー。やっぱ水蛇呼ぶ必要なかったんじゃん」
「ザクロに信じさせる必要があったからな。わたくしを見限って他を当たられては元も子もない。そのための演出じゃ」
「はいはい」
ザクロに他の神の当てがあるのかは謎だが、結局はザクロも清司もヒメの手の平で踊らされていたということらしい。
けれど結果的に、頼子が笑って帰って行けたのなら、霊力の浪費も全くの無意味ではなかったと清司は思った。