過保護な妖執事と同居しています!
私は再びお弁当に向き合う。あんなに楽しみにしていたザクロのお弁当を前にしているのに、私の気分は急降下。
忘れたと思っていた、いやなことを思い出した。今考えても、どうすればよかったのか未だにわからない。
彼とはお互いに納得の上で別れたわけではない。私が一方的に別れを告げられたのだ。
「もうおまえとはつき合っていられない。オレと仕事とどっちが大事なんだよ」
最後に彼はそう言い残して、二度と私とは会っていない。
たぶん不満が積もり積もっていたんだろうと思う。私が仕事を理由に約束を反故にしたのは一回や二回じゃなかったから。
でも男と会うために仕事を放り出してしまうのもどうかと思うのよ。だから彼の問いには答えられなかった。
こんな事言うのは女だけかと思ってた。男に言われた女って私くらいかもしれない。
「そんな質問させてごめんね」って答えれば、丸く収まる。って最近ネットで知った。
もっと早く知りたかったわ。それで私たちの仲が丸く収まったかどうかはわからないけれど。
あれ以来、電話もメールも拒否された。対応がいちいち女みたいで、なんかもう面倒くさくなって放置しているうちに、ちゃんと話もできないまま自然消滅してしまった。
私の諦めも早すぎたかもしれないとは思う。けれどちゃんと別れてないから、未だに思い出すと不愉快なのだ。
ちょっとイラッとしながら、改めてお弁当に箸をのばす。ゴマ和えを口に放り込んで、一口かみしめた途端、私はにんまりと頬をゆるめた。
口の中に広がる鰹だしとゴマの香ばしい風味に、気分は一気に浮上する。
「うまっ」
思わずつぶやいて、おにぎりをつまむ。後はもう夢中でお弁当を堪能した。
我ながらお手軽な性分だと思う。ザクロが指摘したとおり、私はおいしいものを食べているときが一番幸せを感じるようだ。