過保護な妖執事と同居しています!
今日は久しぶりに定時で上がった。本郷さんが飲みに行かないかと誘ってくれたが、用事があると断った。
こってりした居酒屋メニューとビールも、たまにならおいしいと思うけど、やっぱりザクロのごはんが一番おいしい。
会社の入っているビルから自動ドアを抜けて外に出ると、ドアのすぐ脇でザクロが待っていた。
恭しく頭を下げた後、黙って私の後ろをついてくる。
ザクロが毎日送り迎えをするのは、行き帰りに私が危険な目に遭わないようにということらしい。
料理上手な執事はボディガードも兼ねている。
すでに日は落ちて、冷たい北風の吹き抜ける中、私は足早に家路をたどった。
駅に向かう横断歩道の手前で、道路の向こうに見知った顔を見つけて、私の足はピタリと止まる。
昼間思い出して不愉快になった彼が、隣にいる女の子と手をつないで楽しそうに話をしていた。
ふたりの世界に浸っているようで、こちらには気づいていないようだ。
そっか。もう新しい彼女ができたんだ。
私はあなたのせいで男なんか面倒くさいと、次に進めずにいたというのに。
別れた後で彼がどうしていようと彼の自由だし、私にも落ち度があったのだから仕方ないとは思うけど、なんかもやもやする。
信号待ちの人影に隠れて、幸せそうな彼を見つめていると、なんだかまた不愉快になってきた。
そうしているうちに信号がかわり、人波が動き始めた。彼がこちらに近づいてくる。
私は咄嗟に横断歩道の右手へ進路を変え、急いで走り去った。
「頼子、道が違いますよ」
ザクロが不思議そうに声をかけるが、それどころじゃない。一刻も早く彼のいないところに行きたい。
次の信号まで走って、私はようやく立ち止まった。
すっかり息が上がっている私を、ザクロが心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「うん……。平気。帰ろうか……」
小声で答えたとき、信号が変わった。私は横断歩道を渡って駅に向かう。
ザクロは何も言わず、黙って後ろからついてきた。
何やってんだろう、私。なんで逃げなきゃならないの。
むしろ、あんな言葉ひとつで引導を渡した彼の方こそ、後ろめたいはずなのに。
不愉快な気分を引きずったまま、私は電車に乗り、家へ帰った。