過保護な妖執事と同居しています!
家に帰ると部屋はすでに暖まっていた。ザクロはひとりで家にいるときエアコンを使わない。妖怪は暑さ寒さが気にならないようだ。
けれど私を迎えに来るときには、家を出る前にエアコンのスイッチを入れて出かけるらしい。
有能な執事のおかげで、この狭いワンルームはこの上もなく快適な空間に様変わりしている。
まずはお風呂に入って、後はもう寝るだけに身支度を整えた。そして部屋の真ん中に丸い折り畳み式のテーブルを出す。その上に買ってきたものを広げた。
お酒はちょっと奮発して千本錦百パーセントの純米吟醸酒。熱燗にしようと思っていたけど、これは冷やで飲む方が断然いい。
つまみに買ってきたあたりめをザクロが軽く火であぶってくれている間に、丸い座布団をふたつ床に置いて彼がやってくるのを待つ。
少しして、あたりめの香ばしい香りとともに、ザクロが部屋に戻ってきた。あたりめの載った皿とふたつのグラスをテーブルに置いて、ザクロは私の斜め前に座る。
「私がおつぎいたします」
酒瓶に手を伸ばそうとするザクロを制して、私は瓶の封を切り、その口をザクロに向けた。
「いいから、グラスを出して」
おずおずと差し出されたグラスに、私は半分ほど酒を注ぎ、自分のグラスにも同じくらい注いだ。
「じゃあ、かんぱーい。お疲れさま」
「お疲れさまです」
ふたりでグラスの縁を合わせ、カチンと鳴らす。ひとくち酒を口に含んで、ザクロは嬉しそうに笑った。
「やはり原酒はこくがあっておいしいですね」
「原酒?」
「昔は水で薄めて売られてましたから。原酒が飲めるのは酒蔵の主人か殿様くらいのものだったでしょうね」
「でもたぶん、これも”原酒”って書いてないから、加工されてるとは思うよ。昔はもっと薄かったの?」
「店によってまちまちでしたね」
ザクロは元々食事をとらないのに、味には結構敏感だ。宿主が私も含めて、食べるものにこだわる人ばかりだったのかもしれない。
おいしそうにお酒を飲むザクロを見ながら、私は思わずクスリと笑った。きっちりした燕尾服をまとい、床にあぐらをかいて日本酒を飲む赤毛の執事って、ものすごくシュールだ。