過保護な妖執事と同居しています!
昨日海棠は、予定通り定時で会社を出ていった。話を聞くと、料理上手な友人が腕を振るってくれたそうで、ホテルディナー並の料理を満喫したらしい。
ただ、少し飲み過ぎたので、今日は家でゆっくりするつもりだと言う。
せっかくの定時退社日だというのに、オレはまたしても空振りに終わった。まぁ、クリスマスだから、今から店を当たっても、どこも予約で一杯だろうけど。
毎週定時退社日には、社内の仲間とフットサルをすることにしている。クリスマスだというのに寂しいひとり者はオレだけじゃなかったので、いつものように近所の河川敷にある運動場に集まった。
そこは夜になるとライトが点灯し、運動場を照らしてくれる。オレたち以外にも、キャッチボールをしている者や、土手のコンクリート壁に向かってテニスボールを打っている者など、会社帰りの社会人が何人かいた。
二時間ほど汗を流して、みんなはそれぞれ帰って行った。オレはベンチに腰掛けて、ペットボトルのスポーツドリンクを飲む。見上げる夜空には冬の星座が輝いていた。オリオン座くらいしかわからないが。
ふと気付くと、周りには誰もいなくなっていた。
真冬の夜風に汗が冷えて、オレはひとつ身震いをする。立ち上がってダウンジャケットを羽織り、帰ろうとしたとき、進行方向に人影があった。ギクリとして足を止める。
あの赤毛の男だ。
相変わらずの燕尾服が、河川敷の運動場であからさまに浮いている。
男は薄い笑みを浮かべ、オレをまっすぐ見据えたまま問いかけた。
「こんばんは。本郷さんですね?」
「あぁ。君は?」
「頼子の執事です」
執事? からかっているのか? 見た目は確かに執事のコスプレのようだが。
「その執事さんがオレになんの用だ?」
「頼子を困らせないでください」
「は?」
「頼子をしつこく誘っているでしょう?」
こいつ、オレを牽制しに来たのか?
「別に困らせてはいない。彼女の意見を尊重している。そもそもそんな事を君に言われる筋合いはない」
「そうですか」
男は静かにつぶやいてスッと右手を前に伸ばした。そして手のひらをこちらに向けて薄笑いを浮かべる。
背筋にゾクリと悪寒が走った。こいつ、絶対普通じゃない。こんな怪しい奴につきまとわれてるなんて、今すぐ海棠に忠告しなければ。
そう思ってポケットの電話を取り出そうとした時、体の自由が利かないことに気付いた。