過保護な妖執事と同居しています!
「私が繭になったときには、ここは林の奥だったんですけどね」
「え? 林の奥だと人に見つけてもらえないんじゃないの?」
「大丈夫です。このあたりは昔、天蚕(てんさん)の糸を取っていたので、人は繭を探しに山の中に入ってくるんですよ」
なるほど。天蚕を取る人がいなくなったから、ザクロは二百年も眠ることになったのか。
ということは、私が死んだ後もザクロはまた、長く眠ることになるのかな。なんだかかわいそうな気がする。
少ししんみりしてしまった私をザクロが促した。
「頼子、もう行きましょう。風邪を引いてしまいます」
「あ、うん」
私は家の灯りに向かって再び歩き始めた。
玄関を入るとザクロは気配と共に姿を消した。その方がうっかり話しかけたりしなくて済むからだ。両親から見れば、中空に向かって独り言をつぶやいている娘は、おかしくなったかと心配の種になりかねない。
お土産のカニを渡して食事と風呂を済ませた後、しばらくは居間で両親と話をしたりテレビを見たりした。そして十時には両親は寝室に引っ込んだ。田舎の朝は早いが、その分夜も早い。
私も自分の部屋に入って、すでに敷かれていた布団に潜り込んだ。とはいえ、いつもならまだ起きている時間なので眠くない。これはいつものことなので想定していた。
私は布団の中で腹這いになって、荷物の中から小説を取り出す。そしてたぶんいるだろうと、中空に向かって声をかけた。
「ザクロ、いる?」
「はい」
返事をしてザクロが姿を現した。布団の横に跪いて頭を下げる。
「私は少し本を読んで寝るから、山を見たかったら行ってきていいよ。明日一緒に散歩しよう。案内して」
「かしこまりました」
にっこり笑って頷くと、ザクロは再び姿を消した。
もっといい季節に案内してもらえばよかったのだが仕方ない。冬なので山は枯れ木ばかりで寂しい気もする。けれどザクロに、二百年ぶりの故郷の山を見せてあげたかった。明日、雪がどっさり積もってさえいなければ、一緒に散歩に出かけよう。
ちょっとわくわくしながら、私は小説の表紙をめくった。