過保護な妖執事と同居しています!


 声も出ないほど混乱している私をニコニコと見つめながら、妖怪は察したように説明した。


「私は山に棲む妖(あやかし)です。あなたは私を眠りから覚ましてくださいました。ありがとうございます」


 やっぱり、繭に触ってしまったから寝た子を起こしてしまったらしい。
 私は手にした布団叩き棒を妖怪の胸元に突きつける。


「なんでそんな執事みたいなのよ」


 昔から山に棲んでいるなら純和風の妖怪だ。着物ではなく洋装なのは百歩譲るとして、言葉遣いや仕草まで絵に描いたように執事っぽいのはどういうわけなのよ。

 妖怪は相変わらずニコニコしながら答えた。


「私は触れたものの望む姿に変化(へんげ)するのです」
「え……」


 確かに残業続きで毎日帰りが遅くなったり、体調を崩して寝込んだときには、かいがいしく身の回りのお世話をしてくれる執事が欲しいと思ったことは何度かある。

 ていうか、それってマンガやアニメの影響で、本当の執事じゃないし。
 そもそもこのワンルームに執事なんて、違和感が半端ない。
 顔をひきつらせる私をものともせずに、妖怪執事は再び恭しく頭を下げた。


「なんなりとご用をお申し付けください」
「……とりあえず、靴を脱いで」


 言われたとおりに靴を脱いで、玄関から戻ってきた妖怪を私はまじまじと見つめる。
 こいつの正体はわかったけど、目的はわからない。妖怪だから、どんな人知を越えた能力を持っているかもわからない。それが人にどんな害をもたらすかも。
 なんなりとご用を申しつけていいなら、とっととお山に帰ってもらおう。

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