過保護な妖執事と同居しています!
「えーと。飛ぶってどのくらいの高さ?」
「林の上を行きますので、あの木の上くらいですかね」
ザクロが目で示した木を見上げる。てっぺんが見えないんですけど?
「あの……だっこじゃなくて、おんぶじゃダメ?」
だってこんなきれいな顔が目の前にあったら、怖くてもしがみつきにくいっていうか……。
ザクロはクスリと笑って私を下ろし、背中を向けてしゃがんだ。
「どうぞ」
「じゃ、失礼しまーす」
照れ隠しに声をかけてザクロの背中に体を預け、肩の上から胸の前に腕を回す。ザクロは私の足を抱えてゆっくりと立ち上がった。
ちょっとドキドキする。
「あの、重くない?」
「飛べないほど重くはないですよ」
なんか微妙。でも確かに体重は増えてないんだよね。毎日ザクロの作るおいしいごはんを心行くまで堪能しているから、さぞかし太ったんじゃないかとビクビクしながらゆうべ体重計に乗ったけど。
もしかして私が食べ過ぎた分は、ザクロが吸収してるのかな? 太りすぎは健康を害するっていうし。
「しっかり掴まってください」
言われたとおりに私は組んだ腕に少し力を入れる。それと同時に、ザクロは軽く地面を蹴ってフワリと浮き上がった。
葉を落とした木の枝を器用によけながら、時々太い枝を足場に、徐々にスピードを上げて空が近づいてくる。怖いので下は見ない。
突然、まわりから木の枝が消えて、視界が開けた。どうやら林の上に出たようだ。恐る恐る下を見ると、林の向こうに実家の屋根が見えた。
かなり高いところにいるよね。観覧車やロープウェイとか乗り物に乗ってると平気なんだけど、身ひとつで宙に浮いてるのはやっぱり怖い。
私はザクロの背中に一層しがみつきながら尋ねた。
「どこまで行くの?」
「山の頂上です。もうすぐ着きますので」
山に生えた木の上をすべるように、ザクロは風を切って飛んでいく。頬に当たる風が冷たくて、私はザクロの背中に顔を伏せた。
少しして耳元で聞こえる風の音が止み、ザクロがストンと降り立った。私は顔を上げて辺りを見回す。三百六十度視界が開けている。
そこは山頂にある通称三丈岩と言われる大きな岩の上だった。三丈岩は上部が平らになっている丸い岩だ。その直径が三丈(約十メートル)ほどあるのでそう呼ばれている。