過保護な妖執事と同居しています!


「着きました」


 そう言ってザクロは私を背中から下ろした。私はあたりをぐるりと見回す。

 この山は大きな川沿いに拓けた平野の真ん中に、ポツンとある小さな山だ。私の実家と反対側の裾野には、神社と清司の家がある。そして山の向こう側には田んぼや畑が広がり、そこを斜めに切り裂いて大きな川が流れていた。広がる畑のはるか向こうに山脈が連なっているのが見える。

 振り返れば、昨日降り立った駅のホームと線路が見えた。

 この山の頂上に登った人は、神社の関係者しかいないのではないだろうか。なにしろ山頂への道は、立ち入り禁止区域の向こうにある。山の穴場には違いない。ちょっと気になるので尋ねてみた。


「ここって入っちゃいけないところじゃない?」
「人の決まり事としては、いけないんでしょうね。でも本当に立ち入ってはならない場所はごく一部です」


 やっぱり神社が管理してるくらいだから、立ち入ったら祟りがあるとかそういうたぐいなのだろう。今度、清司に会ったら聞いてみよう。


「少しここでお待ちいただけますか? すぐに戻りますので」


 ザクロはそう言って岩の上から飛び降りた。岩の上は結構広いけど、あまりに視界がよすぎて、立っていると足がすくんできた。私はゆっくりとその場に腰を下ろす。

 まわりに何もないので、風の直撃を受けて顔が冷たい。私がフードの中に頭を隠したとき、ザクロが戻ってきた。手にはひとつだけ実の付いた柿の枝を持っている。それを私の前に差し出した。


「まだ実が残っている木がありましたので、ひとつ採ってきました」
「わぁ、これ食べるの久しぶり」


 このあたりの山に生えている柿は渋柿ばかりだ。秋にはたくさん実を付けるので、母が採ってきて干し柿にする。普通は渋を抜かないと食べられないが、渋柿も完熟すると実がとろとろになり甘くなるのだ。

 完熟する前に母に採られて、あまり食べる機会がないので、完熟渋柿は私にとって希少価値がある。

 すぐに食べてみたいけど、これって実が柔らかすぎて絶対に手がベタベタになるんだよね。結局は水がないので、柿は持って帰って食べることにした。


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