過保護な妖執事と同居しています!
冬休み明けの会社が月曜日から開始なんて辛すぎる。初日こそ定時で帰れたものの、相変わらず坂井くんの妨害も健在で、私は木曜日にはばてていた。
フロアの半分はもう人がいなくて灯りが消えている。あとひとつ書類を作ったらもう帰ろう。
そう思って、少し前からうるさく鳴っているお腹をごまかすために、給湯室に向かった。
灯りの消えた給湯室の扉を開けた瞬間、ギクリとして一歩退く。暗闇に青白い人影がたたずんでいたのだ。人影がゆらりとこちらに向く。
悲鳴を上げようとした時、のんきな声が聞こえた。
「おぅ、海棠。まだいたのか」
「へ?」
暗闇に慣れてきた目をこらしてよく見ると、不審な人影はマグカップを持った本郷さんだった。給湯器の青い稼働ランプが白いシャツに反射している。
一気に気が抜けた私は、大きく息を吐き出した。
「幽霊かと思って、びっくりしたじゃないですか。どうして電気つけないんですか?」
「つかなかったんだ。蛍光灯が切れてるんだろう」
それにしたって、懐中電灯を持ってくるとかすればいいのに、人騒がせな。
「明日、庶務に連絡しておきます」
「悪いな」
そう言って本郷さんは給湯室を出て行った。私も一緒に出て備品棚から懐中電灯を取り出し、給湯室に戻る。ココアを淹れて自席に戻ると、少しして本郷さんがこちらを見ながら笑った。
「なんですか?」
「おまえ幽霊が怖いのか?」
小馬鹿にされたような気がして、私はムッとしながら答える。
「怖いに決まってるじゃないですか。幽霊ですよ」
「おまえ見たことあるのか?」
「ありませんけど、怖いものは怖いんです。本郷さんは怖くないんですか?」
「映画とかは作り物だってわかってるから怖くないしな。オレも見たことないから本物が怖いかどうかわからない」
あれ? 本郷さんは霊感があるわけじゃないってこと? なのにどうして、ザクロを見ていたんだろう。
それとも見ていたと私が思い込んでいるだけなの?
少し気になるが、今はそれどころじゃない。さっさと仕事を片付けて帰らないと。
晩ご飯に思いを馳せながら、私はキーボードを叩き始めた。