過保護な妖執事と同居しています!
小一時間たった頃書類が完成し、私は椅子の背にもたれて思い切り背伸びをする。
「終わったーっ」
パソコンの電源を落として帰り支度を始めた私に本郷さんが声をかけた。
「お疲れ。おまえ、もう少し坂井に仕事させろ。おまえは指導係であって、あいつのアシスタントじゃないんだ。全部自分で背負い込むな」
「……坂井くんも仕事してますよ」
ウソではない。頼んだ仕事はちゃんとやっている。ただ彼は私に対して報・連・相(報告・連絡・相談)がない。メモを取らないので、うっかりミスや勘違いも多い。そして謝らない。
何度か注意したがあまり改善されたとは思えない。
「私って話しかけにくいんでしょうか?」
「女性だからってのはあるかもな。あいつ、意外と女に対しては人見知りするところがあるし」
「そうなんですか?」
ホントに意外だ。まぁ、坂井くんとは仕事以外の話をほとんどしたことないから、そんな性格は知らなかったけど。
「もうすぐ一年になるんだ。坂井の仕事のペースやミスしやすいところはおまえもわかってきただろう。あいつの尻拭いをするんじゃなくて、先回りしておまえから声かけてやれ。なるべくあいつにやらせろ。その方が坂井のためにもなるし、おまえが無理して体調崩したりしなくてすむぞ」
そっか。私は坂井くんの指導係だった。指導係になったのは初めてだったから、仕事を片付けることしか考えてなかったかも。彼を導かなくてはならなかったのに。
さすがは本郷さん。経験者はよく見ている。
私は鞄を持って笑顔で頷いた。
「わかりました。今日はこれで失礼します」
「あぁ、お疲れ。また明日」
挨拶をして会社を出ると、外ではいつものようにザクロが待っていた。帰り際に本郷さんと話してたから、今日はちょっと待たせちゃったかも。
夜も更けているので周りには誰もいない。私は小さな声でザクロに詫びた。
「待たせてごめんね」
「いいえ。お気遣いなく」
笑顔で応えて、ザクロは後ろに従った。