過保護な妖執事と同居しています!
バレンタインデー当日、私はいつもより早めに出社した。始業前にさっさとチョコを配り終えて、後は仕事に専念したいからだ。
最初に課に現れたのは、先輩営業社員のふたり。続いて課長、少し遅れて本郷さん。
包装は違うけど、箱の大きさは同じくらいで中身も同じトリュフを選んである。本郷さんの分だけ値段が違うけど、見てくれで区別はつかないようにぬかりはない。
みんな笑顔で「ありがとう」と受け取ってくれた。後は坂井くんに渡せば任務完了。
あと五分で始業のチャイムが鳴るという時、ようやく坂井くんがやって来た。私はすかさずチョコを渡す。
「はい、坂井くん。チョコレート」
「あぁ、バレンタインの……」
さほど興味もなさそうに坂井くんは受け取ったチョコを一瞥する。甘いもの苦手なのかな。
先に好みを調査するべきだったかと、私がちょっとだけ後悔したというのに、彼はそれを撤回させることを口走った。
「どうせ義理チョコですよね」
かわいくなーい!
だがここで怒ると今日の業務に支障が出る。私は無理矢理笑顔を作って静かに否定した。
「義理でチョコを渡したことなんてないわよ」
「え?」
坂井くんは意味がわからないと言わんばかりに、困惑した表情で私を見つめる。
えぇ。私が会社の男子にチョコを渡すのは義理ではなく義務だから! そもそも坂井くんにチョコをあげる義理なんてないし。こっちがもらいたいくらいだもの。
私はそれ以上説明もせず、背中を向けて自席に着く。思う存分悩むがいいわ。
こうしてバレンタインチョコ社内配布ミッションは不愉快に完了した。