過保護な妖執事と同居しています!
ひとつため息をついて私が口を開けたとき、坂井くんが私の手首をつかんだ。
「ぼく、海棠さんのこと何も知らないので、少し話しませんか?」
「ちょっと、ごめん、坂井くん。私が悪かったわ」
私は焦って坂井くんの手をほどこうとする。その時、後ろから低い声が聞こえた。
「その手を離していただけませんか?」
え、ザクロ?
うっかり振り返ると、ザクロが冷たい表情で坂井くんを見つめていた。怒ってるよ……。
どういうわけか坂井くんもザクロの方を見ている。そして眉をひそめながら話しかけた。
「誰?」
ちょっ! 坂井くんって霊感があったの!?
ザクロはひるむことなく不適な笑みを浮かべて恭しく頭を下げる。
「頼子の執事です」
「え、海棠さんってどっかのお嬢!?」
坂井くんは慌てて手を離し、私から一歩退いた。
「いや、あの、それについては話せば長くなるから、この人のことは今は気にしないで。とりあえずチョコの件だけど、義理でも本命でもないの。坂井くんに恥をかかせるつもりはなかったけど、紛らわしい言い方して悪かったわ。恋愛感情はないけど、仕事の上では頼りにしてるから、これからも頑張ってねっていう意味の労いチョコなの」
まさか義務チョコだとは言えない。
勘違いがわかった坂井くんは一気に顔を真っ赤にして口ごもった。
「そ、それじゃ、ぼく……」
「本当にごめんなさい」
私は本気で深々と頭を下げる。
話がまとまったと判断したのか、ザクロが割って入った。
「頼子は私が家までお送りしますので、安心してお引き取りください」
こら、そこの妖怪。ちょっとは空気を読みなさい!
「じゃあ、ぼくはここで失礼します……」
がっくりと肩を落として、坂井くんはひとりでとぼとぼとネオンの陰に消えて行った。
あー、ちょっとかわいそうなことしちゃった。これって年下男子の心を弄んだことになっちゃうんだろうか。だからといってつき合うつもりもないけど。