過保護な妖執事と同居しています!
少ししてザクロは顔を上げ、おもむろに立ち上がった。そして私の手を取り、立ち上がらせる。何が始まるのか固唾を飲む私をまっすぐ見つめて、ザクロは静かに口を開いた。
「それはいたしかねます。私は当家の執事です。お嬢様専属の召使いではありません」
へ?
ザクロが何を言っているのかわからず、頭の中が一瞬真っ白になる。だが、すぐに気付いた。
これってあれだ。私が好きな小説「恋人(つみびと)たちは夜に抱かれて」のワンシーンだ。
伯爵令嬢のセレスティーヌは、先代執事の急逝により若くしてその職を引き継いだロベールに密かな恋心を抱いていた。彼女が十八になった誕生パーティで、侯爵家次期当主との縁談が持ち上がる。
自分の家より格上の相手との縁談を断ることは不可能だ。せめて今まで通り、ロベールと一緒にいられるならそれで満足しようと自分に言い聞かせる。
幼い頃から共に暮らし、常にそばに仕えていたロベールは、ずっと一緒にいてくれるものだと思い込んでいた。ところが、彼がそれを拒絶したのだ。
でも実はロベールもセレスティーヌを好きだったんだよね。このあと二人は互いの想いを伝えあって、甘い一夜を共にするという、前半の山場にあたるシーンだ。
恋人っぽくって言ったから「恋人たち」を演じることにしたのか。
何度も読んでるから内容は覚えている。私はザクロに合わせて、セレスティーヌを演じてみることにした。