過保護な妖執事と同居しています!
お風呂を終えて鏡の前に座った私は、髪を乾かしながら自分の姿をまじまじと見つめる。
髪、伸びたなぁ。去年の夏には肩に掛かる程度だったのに、今は背中に届いている。長い髪を乾かすのが、こんなに面倒だということを思い出した。
いつもは後ろを乾かすのをザクロが手伝ってくれている。日常生活のあらゆることを、私はザクロに依存していた。
ちょっと甘えすぎかなと思う。だから何度かザクロに恩返しをしようと申し出たが、丁重にお断りされた。私に頼られることがザクロにとっては幸せなことらしい。
今部屋の中にいるのかな。何を考えてる?
気になるけど、もう少し考えてて。
苦労して髪を乾かした私は、ベッドに寝ころんで文庫本を開いた。キリのいいところまで読んで栞を挟む。枕元にある目覚まし時計を見ると、帰ってきて三時間は経過していた。残業をしていた頃、家に帰り着く時間だ。そろそろいいかな。
目覚まし時計もザクロと暮らすようになって使われていないことを思い出した。
私は体を起こし、ベッドの縁に座る。そして中空に向かって呼びかけた。
「ザクロ、いるなら姿を見せて」
「はい」
部屋の真ん中にザクロが現れる。やっぱり部屋の中にいたようだ。相変わらず気落ちしたように俯いている。
「こっちに来て座って」
ザクロは言われた通り、私の前に来て正座した。また叱られると思っているのか、私を見つめる赤い瞳が不安げに揺れている。
私はその瞳を見つめ返しながら尋ねた。
「ザクロ、今どんな気持ち? 私の胸が痛んだのはわかったでしょう? 自分のせいで他人の胸が痛んだのを知って、ザクロはどう思ったの?」
「頼子の心が傷つくのは辛いです」
「私も同じよ。私のせいで誰かが傷ついたら辛いの」
ザクロの頬を両手で包み、私は言い聞かせる。
「人はね、自分が直接傷つかなくても、自分のせいで誰かが傷ついたら心が痛くなるの。今までのザクロはそれがわからなかったかもしれないけど、もうわかったでしょう?」
「はい」
私を見つめるザクロの赤い瞳に、もう困惑の色は見えない。
「もう一度約束して。たとえ私を守るためでも、絶対に他人を傷つけないって」
「約束します」
私の手に自分の手を添えて、ザクロははっきりと頷いた。もう大丈夫。身を持って痛みを感じたなら、ザクロにも理解できたはず。
私も頷いて笑いかけた。
「お腹空いちゃった。今からご飯にしてもらっていい?」
「はい。すぐご用意いたします」
いつもより一層うれしそうに笑って、ザクロはキッチンに向かった。