少女狂妄
 青年が家に帰った時、中は静まり返っていた。

 家族の靴は全て玄関に置かれており、無人なわけではない。

 リビングに入ると、母親がソファーで静かに寝息を立てていた。

 青年はそれを確認すると、リビングに荷物を置いて和室に向かった。

 ほとんど物置と化しているその部屋で、青年は迷わずに奥の襖戸に歩み寄る。


「朱音」


 畳みに膝をつき、押し入れの下段にいるであろう少女に声をかける。


「お母さん、もう寝ちゃったみたいだから。大丈夫だよ、出ておいて」


 優しく襖をノックしてみるが、中から反応はなかった。

 襖を引いてみるが、やっぱりといったように中でなにかに引っ掛かり動かない。

 普通は二枚一組になっている襖戸だが、ここの襖は一枚で反対側は壁だ。

 少女が中から開けなければ、開かない。
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