狂妄のアイリス
 気が済んだ女は、さっきの行動が嘘のように優しい笑顔で少女をリビングに連れて行った。

 焼きそばを作って、テーブルに座らせた少女の前にお茶と共に出す。

 口に運んだ焼きそばはポロポロをこぼれ、手にしたお茶の水面は細かく波立っていた。

 昼食を出した女は少女の傍らに座り、じっと少女を見て微笑んでいる。

 女に見られながら食事をする少女の手は、恐怖に震えていた。

 女は少女を見るが、少女は決して女を見ない。

 じっとお皿だけを見つめて、視線に押しつぶされそうになるのを耐えている。

 女の手が伸びて、テーブルの上のお茶を倒す。

 お茶がテーブルの上を流れて、少女の服を汚す。

 カップが転がり、床の上で砕けた。

 飛び散った破片が少女の足をかすめて、血がにじむ。

 カップを倒した女の手が少女に伸びて、髪を乱暴につかんだ。
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