狂妄のアイリス
 髪を引き千切られそうになりながら、少女は床に引き倒される。

 椅子が倒れて大きな音を立て、立ち上がった女のスリッパがカップの破片を踏む。

 破片の上に倒された少女は体を丸め、祈るように目を閉じる。

 女の金切り声は、悲鳴のようにも聞こえた。

 本来なら悲鳴を上げる側の少女は口内を噛んで黙りこむ。

 胸倉をつかまれて、平手で打たれ、口いっぱいの血の味が広がる。

 蹴飛ばされても、どんなに酷い言葉を投げられても、少女は目も口も閉ざす。

 現実を拒絶するように、頑なに閉ざし続けた。

 抵抗することさえ出来ずに、ただうずくまる。

 子どもの玩具のように乱暴に、少女は女に扱われる。


「あんたらさえっ……」


 悲鳴か怒声か罵声かもわからないような金切り声が、初めてはっきりとした言葉を発した。

 スリッパの下でお茶が跳ねて、女は少女の首に手を伸ばす。
< 157 / 187 >

この作品をシェア

pagetop