少女狂妄
 なんだったんだろう。

 不思議に思いながら、樹のいなくなったベッドに起き上がる。

 シーツについた手が、わずかに震えていた。

 樹が、可笑しなことをするからだ。

 違う、それだけじゃない。

 日向さんの言葉が耳に残って離れない。

 あの女の子が口にした名前。

 朱音――日向さんの妹――西村朱音。

 ただそれだけのことに、どうして私はこんなに怯えているんだろう。

 アカネって名前の子に、いじめられでもしただろうか。

 もちろん、そんな記憶はない。

 それでも、そういうことにしておきたかった。

 怖い。

 とっても、怖い。

 今まで踏みしめていたはずの地面が、急に揺らいでしまった。

 しっかりと、自分の足で立てなくなる。

 紅茶に浮かべた角砂糖の上に立ってるみたい。

 ゆるゆると紅茶が浸みこんで、角砂糖の地面が溶けて崩れていく。
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