少女狂妄
 私は血まみれのマフラーを足にまとわりつかせたまま、机に這っていく。

 引き出しを開けて取り出したのは、大振りのカッターナイフ。


「懐かしいね、蛍」


 姿の見えない幻覚の幻聴だけが聞こえてくる。

 まるで耳に入り込んだ羽虫みたいな声が、神経を逆なでる。

 ゆっくりと、カッターの刃を出す。

 私はそれを服の上から腕に当てた。

 勢いよく引くと、服が裂けておじさんが巻いてくれた包帯が露わになる。

 その包帯も皮膚と一緒に引き裂いて、今ついた傷と洗面所でつけた傷が現れる。

 カッターナイフを握り直す。

 刃を包んだプラスチックの感触が、気持ち悪い。

 熱に浮かされた時、肌に触れるシーツさえ厭わしいような心地。

 私はカッターナイフを捨てて、ガーゼで覆われくっつき始めていた食虫植物の口をこじ開ける。

 爪を立てた傷口からは、粘度のある黄白色の液が出た。

 爪を退けると、少し糸を引く。

 傷口は膿んでいた。
< 83 / 187 >

この作品をシェア

pagetop