少女狂妄
 頭に血が上る。

 眩暈がして、浮遊感がして、どうにななりそうだった。

 溜まった血が眼から溢れてしまいそうな気がする。


「死にたくない……」


 血の代わりに、私は涙を流していた。

 それは私の声だったのか、樹の声だったのか。

 私は傷口に爪を立てて、さらに深くえぐる。

 泣きながら、えぐる。

 私は、もう一つの記憶を思い出していた。

 再びカッターナイフを手に取り、今度はタートルネックに当てる。

 再び刃が布を引き裂き、首筋が露わになる。

 首は傷だらけだった。


「死にたい」


 つぶやいたその言葉さえ、誰のものかわからない。

 何度も自分を傷つけた記憶。

 それでも、私は死ななかった。

 一年前のあの冬から、今年の夏までの忌まわしい記憶。

 家族の死を目の当たりにした後の日々。
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