少女狂妄
「大丈夫ですよ。ギリギリのところで逸れていましたから、目に異常はないです。包帯が取れれば、今まで通り生活出来ます」


 潰すはずだった眼球は未だ眼窩にあり、腕の傷も新しい包帯が巻かれている。

 ただ裂けて血まみれの服だけが、悲惨の名残を残していた。


「ただ少し、痕が残るかもしれませんが……」


 言いにくそうに言われても、私は苦笑するしかない。

 私がまだ若い女性であることを慮ってくれているんだろうけど、今更だ。

 いくら顔とはいえ、もうこれだけ傷だらけなんだから。

 どうでもいい。

 些事だった。


「はい、終わりましたよ」

「ありがとうございます」


 包帯を巻く医師の手が止まり、死角からおじさんの声がした。

 声のした方に顔をやると、おじさんが血まみれの服で頭を下げていた。
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