可愛くないって言わないで!!

今日はまた一段と暑い。


でも暑さにひるんでる場合じゃなかった。



「どこ小だよ?」



駐輪場で、銀色の自転車の鍵を外しながらコウが聞いてくる。


ほんとに送ってくれるつもりなんだ。



「明野小学校……」


「ん。15分もありゃ着くだろ」


「いいの? 文化祭の最中なのに」


「お前もだろ!」



そりゃそうなんだけど。



笑うコウにつられて、あたしも笑った。


笑いながら、コウの自転車の後ろに飛び乗る。



「よし、コウ! 全速前進!」


「お前! 乗ってるだけのくせに偉そうだな!」


「いいから急ぐ!」


「わーったよ!」




ぶつぶつ言うコウの腰に、しっかりつかまる。



走り出す銀色の自転車。


暑さはもう気にならなかった。




コウの体温。


コウの匂い。


コウの息づかい。



風を切って進むコウのすべてを感じながら、あたしは真子の小学校へと向かった。



自転車は早く、でも優しく、長い坂をくだっていった。







< 241 / 289 >

この作品をシェア

pagetop