3つのR
5、初夏、記憶の美形と現在の美形
夜は静かにサラサラと時間が過ぎていくように、いつも思っていた。
太陽が沈んで辺りが暗くなり外の音が少なくなる。
カーテンを閉じて温かい部屋の中で気楽な格好で寛ぐ時間だ。
特にテレビもラジオもつけない我が家では、晩ご飯が住むと姉と私はお茶を淹れて雑誌や本を読んで寛いだり、寝る支度をゆっくりとしたり、忙しいときにはまた仕事をしたりする。
静かで、自分の内側にとっぷりと浸れる何と言うことはない時間。闇というのは人に自意識というものをぶつけてくると思う。視界の邪魔がなく、聞こえるのは自分の心の声だけって時だ。
結婚している時から、夜はそういうものだった。家に夫がいなかったので、子供もいない私は一人で手遊びをしていたりしたのだ。ぼんやりと編み物をしたり、洗濯物をノロノロと片付けたり。
ところが、それが今はちょっと変わってしまった。
街路樹のハナミズキが咲き誇り、家の前の公園で遅くまで高校生がはしゃぐような気持ちのいい季節、5月。
最近、私の夜は現代の文明の利器である携帯電話に占領されている。
ここ数年私には無かった、人との繋がりを表す着信サイン。
メールとか。
電話とか。
緑色のランプが点滅して、テーブルの上でぶるぶると震える。その音に、私の夜は何度も仕切りなおしをさせられるのだ。