3つのR
「孝太君は夜の回にくるんでしょ?」
高田君は頷いた。
「そう。俺はそれも出席します。営業じゃなくなってから土日が休みだから、暇なんです」
あははと私は笑う。そうか、保険会社で本社勤務って、事務とかそんな仕事になったのかな、と思った。
「だって結婚したんでしょう?奥様は土日も働いてるの?」
つい学生の時に戻ったような感じで突っ込んで聞いてしまった。高田君にこれだけ砕けて話しかけたのは初めてかもしれないのだけれど。
高田君はその変わらない静かな声で淡々と言う。
「妻は、営業なんです」
「あら」
それはそれは。もうちょっと詳しく聞きたいところだったけど、会場が落ち着きつつあるようだと気がついた。中座がハッキリばれてしまう前に戻らねば。
高田君も同じことを思ったようだった。チラリと会場の方へ目をやって言う。
「戻りましょうか。潤さん、ご飯取ってないでしょう」
「それは高田君もでしょ」
言い合って、二人で会場に戻る。入ったところで彼がすっと離れていくのが判った。私は何気なく壇上の方に視線をやり、千草が私を見ているのに気がついた。
彼女の目がすっと高田君の背中を見て私に戻る。
・・・あらら。
花嫁を心配させてしまったらしい。私はその場で出来るだけ大きな笑顔を見せる。
千草の心配そうな顔が笑顔に変わるのを、じっと見ていた。