3つのR
8、夏、高原の夜
龍さんは私と付き合う宣言をしてからというもの、週に2回、我が家まで来るようになった。勤め先の居酒屋「山神」が休みになる月曜日と土曜日だ。
他の予定は大丈夫?と私が心配して聞いても、ダイジョーブダイジョーブ、と笑ってやってくる。そして私と一緒にゴミ拾いをし、私が何か外に用事があればついていき、昼食を作ってくれるのだ。
どっかにデートにいくには、もうちょっとジュンコさんが体力つけてからね、そう笑って、彼は私の日常を同じように過ごして夜に帰っていく。
龍さんはあの人懐っこさで、朝の公園の人達とも夕方の川原の人達ともすぐに仲良くなった。私は他の日には「あの格好いい子はどうしたの?元気?」などとおじいちゃんやおばあちゃんに聞かれるようにすらなってしまった。
私が1週間かかってやることを、彼はほんの1日で成し遂げてしまう。それはやっぱり羨ましくもあったけれど、それよりも先に感動がくることの方が多かった。
私が憧れる世界、そこに彼は気軽に手を差し出して連れていってくれる。
いつか、追いつきたい。
そして自力で到達できるように。
彼に連れていってもらうのではなくて、一緒に並んで行けるように。
そう心の底から思えるようになった今の私が、成長したじゃあないの!と思う夜もあるのだから。
私達はそうやって1ヶ月ほどを過ごしていて、私は龍さんが隣にいること、そうして一緒に笑ってくれることに慣れてきた。あの3連の青い輪のピアスが視界で揺れる。それが自然なことだと感じるほどに。