3つのR
私の質問に彼は目を閉じてうんと答える。そしてそのまま言葉を続けた。
「うちの店の2階は森って呼ばれてるんだ。ほんと、森みたいに一面の緑なわけ。壁も天井も床も緑色してて、そこに虎の育ててる観葉植物が所狭しと置かれてる。植物園みたいになってんだよ、あの店の2階」
「へえ~!それは、相当好きなんですね、自然が。店長さんって男性ですよね?」
「そう。山神の虎といえば有名なんだよ~。年は俺より若いんだけどね、昔結構なヤンキーで田舎では悪名高かった野郎で、今ではすっかり落ち着いちゃってるけど、たまーにその頃の名残が出るんでビビる時がある」
「へ、へえ・・・昔ヤンキーで、今居酒屋の店長・・・」
「そうそう。植物愛好家で山神信仰者。お陰でうちの店で働く子はすべからく山神に傾倒する羽目になる。なんか、自然とね、そうなっちゃうんだよな」
「ああ、山神様!」
龍さんもよく話してるもんねえ、私はそう思ってちょっと笑った。あまりにその単語を聞くもので、いつの間にか山神様は私の中でも大きくなっていたのだ。
「初めはちょっと引くんだよ。新興宗教かなんかですかって聞くバイトもいたし。だけどやることといったら手を合わせてお願いごとをするくらいだし、金がいったり特別な儀式があるわけでもない。だからその内皆と一緒に拝みだすのがいつものパターン」
「店長さんが生み出した神様なんですか?」
龍さんはうーん?と悩みだした。
「・・・まあ、そうとも言えるかな。虎が森や自然を好きで、それがそのまま形になったって感じっぽいけど」
「店長さんは元々は優しい方なんでしょうね」
自然が好きだなんて素敵だ。観葉植物もたくさん育ててるっていってたし、昔グレて居た頃があったにせよ、きっと今は春風みたいな雰囲気の人なんだろうな。そう思って私が言うと、龍さんはケラケラと笑って否定した。