3つのR
しばらくしてから龍さんが起き上がり、犬みたいに全身をぶるぶると振って草を落とす。それから私の手を引っ張って、予約してあったペンションの周りの林を散歩した。
「実は」
白樺の林の中を歩きながら彼が言う。
「友達の代わりなんだ、この宿泊。嫁さんが出産する前に二人でいく最後の旅行を、って友達がいて、奥さん希望のペンションを予約したはいいんだけど、奥さんが階段から足を滑らしちゃったらしいんだよ」
「えっ!??」
私は驚いて足を止めた。に、妊婦さんが階段で足をっ!??それってそれって・・・。
青ざめた私を見て、彼は慌てて両手を振る。
「ああ、大丈夫。奥さんの体は大丈夫だったらしいんだけど、それで驚いてか産気づいちゃって。それで行けないから誰かいかないか?ってメールが回ってきたんだ」
「・・・ああ、良かった~・・・」
ほお、と体の力を抜いた。龍さんが慰めるように私の手をポンポンと叩く。
「平日に休みのカップルって少ないからさ、俺が貰えたわけ。そろそろジュンコさんとどっか行きたいなあ~って思ってたから、丁度いいやと思って」
「あ、うん。・・・私も嬉しかったです。ワクワクしちゃって、昨日の晩。眠れなくて、龍さんが持ってきてくれたお酒飲んだりしたの」
えっ!?と彼が仰け反った。
「あれ強かっただろう!臭みを飛ばすための料理酒で・・・美味しくないはずだし」
あ、そうなのか、私は苦笑する。何の確認もせずに飲んだから、何とも思わなかった。