3つのR


 頭に血が上ってフラフラな状態で行ったのだけれど、晩ご飯は凄く素敵だった。

 このペンションのマスターは元々フレンチのシェフだった人らしく、こじんまりしたメルヘンなペンションには驚くほどの本格的なフレンチが出てきたのだ。

 フルコースだよ、フルコース。

 外見や好んで着る服装からは想像も出来ないテーブルマナーを見せて、龍さんがフレンチを楽しんだのにも私は底抜けに驚いた。お陰で折角の素敵なフルコースも上の空で食べたほどだ。

 龍さんはふふんと鼻で笑って、私をたかーいところから見下ろす。

「料理人がそんなこと学んでないわけないでしょ。作法を知らなければ、美味しそうに食べればそれでいいんだよ」

 そう言って、あからさまに私をバカにした。

 くううう~!!と私は悔しさに歯噛みしたけれど、主の「そんな人滅多にいませんよ。どうぞ気軽に楽しんで下さい」の一言で、呪縛が解けたように肩の力が抜けたのだ。

 だから最後の方は純粋に、美味しくて目も楽しませる料理として堪能できた。

 龍さんはイタリアンなんでしょ?と聞いたけど、専門は、一応ね、なんてよく判らない答えしか返ってこなかったのだ。専門なのに一応って、何。この人、何だか底抜けに奥があったらどうしよう。

 お客さんが私達しかいなかったからだろう、ペンションの経営夫妻はよく相手をしてくれた。主と龍さんは料理の話をしていたし、私は奥さんとガラス工芸の話もした。元々人懐っこい龍さんが場を盛り上げて、夕食は始終楽しい雰囲気だったのだ。

 お酒はどちらもそんなに強くないからと食前酒だけにして、終わりのコーヒーをペンションのベランダのテーブルで飲む。


< 192 / 258 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop