3つのR


「・・・同情されんのはごめんだ」

 その静かな口調に、本気を感じた。私はそろそろと口元に手をあてる。うかつなことを喋らないために。バカなことを言って、彼の傷を広げないために。

 龍さんは目を細めて月と暗闇の森を見る。それから、ふ、と笑った。

 姿勢を更に崩して、頭を完全に後ろの壁に預けながら私を見て言った。

「弱くて酷い過去があって、俺は強くなった。ジュンコさんに言った3つのRは、実際俺がしたことなんだ。それで今は諸々の全部を乗り越えて、ここに、いる」

「――――――――」

 3つのR・・・龍さんも、したんだ。

 私はぼんやりと風に吹かれる。

 人間が傷付くことはいたって普通のことだ。生きていれば、大なり小なり皆傷を作る。だけどそれを乗り越えて、そして、今現在ここにいること、それが大事で――――――――――――・・・

「ジュンコさん」

 龍さんが私を呼んだ。

 その艶っぽい響きに私は目を瞬く。

 一瞬で、さっきまでの真剣な、そしてぼんやりとした雰囲気が消え去ったのを感じた。

 隣を振り返ると、大きな微笑を浮かべた龍さん。

「俺風呂に入ってくるから、部屋で待ってて。――――――――裸でね」

 かくーん、と顎が落ちたかと思った。


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