3つのR
「今までの人生で、それを色んなことに失敗したり諦めたりしていた理由にしてたんです。上手くいかないのは・・・全部、そのせいだって」
徳井さんは黙って私の話を聞いていた。初めは喜んで興奮し、そこ等辺を跳ね回っていたクリちゃんも、尻尾を振りながら座り込んで飼い主の徳井さんを見上げている。
「その考えが、あの男性に会って変えられました。結局は――――――――」
そう、それが今では判るのだ。色々なこと全部、結局、私は・・・。
「私が自分に自信がなかっただけだって」
徳井さんは暫く黙ったままで私を見ていたけれど、視線を外して頷いた。
「それは判る気がします。僕も仕事が忙しかったからと言い訳にして、色んなことを見過ごしできたように思いましたから。・・・それに気がついて、仕事も変えました。引越しして、在宅にして、クリも引き取って」
そうなんだ。私はまた垂れてくる汗を拭った。
「ようやく自分の生活を見直して、それから初めて興味を持った女性でした。あなたが。・・・今から思うときっと、あなたが僕と同じような雰囲気に思えたからでしょう」
彼はしゃがんでクリちゃんの頭をなでる。大人しく吼えたりはせずに、クリちゃんは嬉しそうに彼に鼻先をこすりつける。
「だけどお似合いの人がいるのでは・・・仕方ないです」
私は何て言えばいいのかが判らずに、ゴミ袋を持ったままで立っている。それにしても、暑いですね、そう言って徳井さんは立ち上がった。