3つのR
彼はすぐに出てきた。首からタオルを提げて、右手には携帯電話、左手にはペットボトルを提げている。誰か判らない年配のごつい男性が上半身をドアから覗かせて、龍さんと何かを喋り、笑って手を振った。
私がそれを通りの向こう側から見ていると、龍さんが軽く走ってやってきた。
「お待たせ」
「え、あの、はい・・・」
私は驚きが消えないままでよく判らない返事をする。
目の前に立つ龍さんは、頬のところに二箇所も絆創膏をはって、まだ汗に濡れていた。だけど公園で別れたときとは違うサッパリとした顔をして、口元を緩めて私を見ている。
「なんで入らなかったの。場所、すぐ判らなかった?」
龍さんがタオルで乱暴に額を擦りながら言う。彼からぶわっと汗の匂いがした。それはとても男性っぽくて、私は勝手にドキドキした。し、知らない世界だわ・・・。命綱のようにぐっとバッグの紐を握り締めて小声で言う。
「あの・・・驚いて・・・。入る勇気がなくて。・・・ええと、龍さん、ボクシングしてるんだ、ね」
彼はぐるんぐるんと首や肩をまわして、ああ~と声を出した。
「気持ちよかった~!やっぱりイライラが溜まってるときはスパーリングに限る!スカッとする、マジで」
「あ・・・良かった、ですね。あの、龍さんごめんなさい」
「あ?」
髪の毛に手を突っ込んで首を斜めに伸ばしていた彼が、怪訝な顔で私を見下ろした。私は謝ったのに聞き返されるのが不思議で彼を見詰める。
「何が?」