3つのR
彼はどうして謝られるのかが判らないらしい。・・・あら、忘れちゃったのかな、私はそう思って首をかしげた。
「今朝・・・ほら、公園で。私の態度が変で、怒っちゃったでしょう」
龍さんはストレッチをやめて、ふう、と息を吐く。そして軽やかに言った。
「もう別にいいけど?十分発散したし。久しぶりに考さんとリング入ったらボコボコにされたけどさ~。あははは」
・・・笑ってるし。ボコボコって、殴られたってことだよね・・・。私は目を白黒させる勢いで瞬きした。ああ、ほんと・・・判らない世界。殴り合いすることで、気分がすっきりするものなのだろうか。痛くないのかしらねえ・・・。
そこでハッとした。違うでしょ、私。決心して、ちゃんと言いにきたんでしょ!ボクシングに驚いて当初の目的が飛んでしまっていた。彼は既に機嫌が直っているようだけど、それではいけないのだ。何の根本的解決もしていないではないか。
道に立ったままで向き合って、私は龍さんを見上げる。
「あの・・・ちゃんと話に来たの。顔見て言わなきゃって思って・・・それで、あの――――――」
龍さんが目を細めてにこっと笑った。それから、パッと顔の前に手のひらを見せる。
「ジュンコさん」
「え・・・あ、はい?」
「ここで立ち話じゃなくてもいいだろ?ジュンコさんがわざわざ俺を迎えに来てくれたの判ってるよ、ちゃんと着替えて、化粧までしてさ。そんなこと初めてだから、俺は今、喜んでるんだよ」