3つのR
黒い短髪、大きな口、それにあの、懐かしい瞳。
横断歩道を渡りきったところで、私は足を止めてしまった。
―――――――――孝太、君。
驚いた顔の元夫が、トラックの助手席から私を見ていた。彼の唇が動きかけたのを見て、私はそっと首を振る。運転席の女性は明るい笑顔で何かを楽しそうに話していた。
頭の中で、高田君の声が流れ出す。
・・・孝太にも、付き合っている女性が・・・。
私は、ああ、そうか、って心の中で呟いた。
彼女が、その―――――――――・・・
彼の目がパッと私を呼んだ龍さんにうつる。そして、ゆっくりと笑顔になった。目が細められ、口元が大きく引き上げられる。それはかつては私に向けられていた笑顔、彼の優しいお母さんに似た、大きくて愛嬌たっぷりの笑顔。
交差点の信号待ちで止まったトラックと、その前を通り過ぎた歩行者。二人が視線を交わしたのはきっと1分にも満たなかった、いや、もしかしたらもっと短かったかもしれない。
だけど、私と孝太君にとって、それは永遠にも似た長い時間だった。
そして、とても幸せな時間。
彼にとってもそうだったはずだ。
だって、あの懐かしい笑顔が。
信号が変わって、トラックがゆっくりと動き出す。それと同時くらいにトラックの窓が開いて、懐かしい手が伸びて出てヒラリと一度だけ振られた。
私も胸の所に手をあげる。指先だけを軽く曲げる、挨拶を送った。