3つのR
姉の方をみずに、手を黙々と動かしながら私は言う。
「去年の秋に病院で、耳がルーズリーフの男の人に会ったって話したよね?」
「へ?――――――ああ、はいはい。えらく目立つピアスと、ボコボコの顔だったって人のこと?」
あなたが中々帰ってこなくて、ちょっと心配したあの日ね~と姉は指で口元を叩く。
そうそう、私は頷いて、ずっと履いてなかった黄色いブーツと1年目の結婚記念日に彼と買ったお揃いのスリッパを段ボールに突っ込む。今考えたら、どうしてそんなものを取っておいたのだろうか。
「その男の人が、教えてくれたの。新しい人生の歩き方・・・ちょっと違うか。まあ、いいのよ。とりあえず私は今断舎利中なんだから」
・・・ああ、そう。姉の、怪訝な声が聞こえる。きっと頭の中では、どうしちゃったの、この子、とか思ってるのだろう。しばらく無言で私のやることを見ていたけど、その内また声が飛んできた。
「ちょっと潤子、だから、ご飯だっつーの。一度手をとめなさいよ、キチガイみたいになってるわよ」
「ううー!」
邪魔されて私は膨れる。だけど、お腹も確かに空いているし、体が弱かろうが強かろうがご飯は大切だ。しぶしぶ立ち上がった。
戸口に背中を預けてもたれる姉が、にやりと笑って私を見る。
「・・・何よ」