3つのR
仕事がうまくいくように、と父親がまだ新しいパソコンを譲ってくれたので、インターネットの勉強も始める。毎日目が痛くなるくらいに作業をして眠る。だけどそれは辛くなくて、私の中に大きな安定感を生んでいたのだった。
とにかく今の私には、やることがあるのだ。暗い家で一人でただ呆然として夫が帰ってくるのを待っていた日々や、実家に戻ってやることもなく病院と家を往復していただけの日々は確実に遠いことになっているのだから。
壁にはったreduceの文字も見慣れ、部屋から物が少なくなり、仕事が何とか形になって、風がそろそろと温かくなってくる。
春はいつの間にかすぐそこまで来ていた。
「悪いけど、締め切り近いから私今日家に詰めるわ」
げっそりした声で、姉がそう宣言した。
朝日差し込む小さなダイニングで一緒に朝食を食べている時だった。
「あ、はい。大変そうね、お姉ちゃん。私は外に行った方がいいってことよね?」
ダージリンを淹れたカップを両手で持ちながら私はそう尋ねる。
翻訳家の姉が現在かかりきりになっている英国の分厚い医学書、その仕事の締め切りが近いようだった。最近の姉は膨大の資料に埋もれて睡眠時間を削って作業しているのを知っていたけど、それがいよいよ佳境に入っているらしい。