3つのR
「あ、どうぞ」
椅子を一つずらしたら、彼は軽やかに隣に座る。ふんわりと風が吹いて待合室のざわめきが一気に遠ざかった気がした。
うーんと・・・あ、そうそう、右田さんだった。右田龍治、さんだ。隣に座る男性を意識して固くなる体の力を抜くためにこっそりと息を漏らした。
彼は今では怪我も完治して、綺麗な肌にバランスの良い目鼻立ちが映えている。
・・・ああ、やっぱりいい顔だなあ、私は心の中で呟いて、口を開いた。
「また怪我ですか?」
「まさか」
彼がニッと笑った。長めの髪や首筋や目元や口元から、えらく色気の漂う笑顔だった。私はその威力に照れてしまって凝視をためらう。
・・・うーん、こんなに色気のある男性は初めてだから、どこを見たらいいのか判らないわ!
「俺だっていつでも暴れてるわけじゃないんですよー。前の、あの怪我で保険が降りるから、診断書がいるんだよね。書類を書いてもらいに久しぶりに来たら、何かみたことのある人がいるぞ、と思ってつい話しかけました」
「あ、なるほど」
保険の請求か、それは大切。元夫が保険会社勤務の営業だったので、一般の人よりは保険について知っている。傷害保険のことも張り切って話していた夫を思い出してしまった。