3つのR
私は彼に頷いてみせて、ようやく自分の重ねた両手を見詰めることで視線の落ち着き場所を定める。何だかこの男性はどこを見てもドギマギしてしまうのだ。普通の格好で平然としているけれど、こちらとしては目のやりどころがない。いきなりパッと笑うしさ。
「そっちはまた高熱?」
いっそのこと彼の顔をじーっと見てみたいけどそんな勇気もなくて、私は自分の両手を凝視しながら話す。
「いえ、検診です。私も前の時から熱は出してないんですよ。この冬は一度も!」
「それって当たり前の話だと思うけど、ジュンコさんにとっては凄いことなんだろーねえ」
「そうなんです。―――――――あ、そうだ」
私は思いついて、ついくるりと彼を振り返ってみた。
「ん?」
バッチリと目があってしまって、やはり少しばかり身を引いてしまう。
「あ、ええと・・・あなたが去年言ってた3つのR、私始めました。とりあえず、部屋の整理からですけど、過去に関係あるものはバンバン捨ててます。夫に買って貰ったものとか、思い出の雑貨とか」
おお、と彼が呟いた。
「そういえば、そんなこと言ったな。実行するとは素晴らしい~。・・・あ、アダチジュンコさん、呼ばれてるよん」
「あ、はい。ありがとうございます」
椅子から立ち上がって財布を出しながら、何だ、言った本人は忘れてたのか、とちょっとガッカリした。だけどこれは私の問題なのだから、彼は関係ないんだし、ガッカリするとか失礼か!お金を支払いながらごちゃごちゃと考えていると、お釣りを貰いそこねるところだった。