3つのR
そ、そうなの!?私は引きつったけど、彼は平然としてる。
話し声と一緒に聞こえてくるのは規則正しい包丁を使う音。そのトントントンて音が滅茶苦茶早くて手元を覗き見したくなった。・・・そうか、職人さんだもんね。外見からは余りにも予想がつかないけど、本人の言う通りにやっぱりこの人は料理人だったんだな。そんな感想を持ちながら、居酒屋という場所が久しぶりすぎた私はゆっくりと店の中を見回す。
カウンターに9席、それからテーブル席が3つ、座敷が二つ。見かけは小さそうに思えたけど、中は結構広めの店だった。奥には2階へあがるらしい階段と、壁にはられた注意書き。・・・「店の人だけの場所です」?
その、お世辞にも綺麗な字とは言えない張り紙を、私は大変好ましく感じた。
なんか、居心地良さそうな雰囲気がするなぁ、と思って。
そのまま壁伝いに視線を移動させ、神棚のような、装飾された棚を発見した。何だろう、あれ。神棚にしては地味だし、お供えなんかもないし―――――――――――
「あれが、山神様だよ。この店の名前の元」
振り返ってカウンターの上のお皿を取るついでに私の視線に気付いたらしい龍さんが、そう言った。
「あ、やっぱり神棚なんですね」
「うーん、それとはちょっと違うかも、だけど。うちの店長の信仰の対象」
ふーん・・・。よく判ったような全然判らないような。まあ、何であれ信仰の対象をもっている人は強いよね、そう思って私は一人で頷く。
どん底に落ちた時、信仰の対象は、その人を底から支える―――――――――